
働き方・キャリア
満員電車は、五感のすべてを毎朝すり減らす。

通勤のつらさを語るとき、私たちはたいてい「時間」の話をします。片道1時間、往復で2時間。そうやって数字にすると、失っているものがはっきり見えるからです。でも、通勤で本当にすり減っているのは、時間だけではありません。もっと見えにくくて、数字に出ないもの。満員電車は、私たちの五感のすべてを、毎朝少しずつ削っています。
朝、家を出たときは、まだ元気だったはずです。それなのに、会社の最寄り駅に着いて改札を出たころには、なぜかもうぐったりしている。まだ仕事は一秒も始まっていないのに。その正体は、たぶん「感覚の消耗」です。今日は、この見えにくい疲れの話をしてみたいと思います。
においも、音も、圧迫も、全部が刺激になっている
満員電車の中で、あなたの五感が何にさらされているかを、一度ていねいに思い出してみてください。
嗅覚は、香水と整髪料と汗と、誰かの朝ごはんのにおいが混ざった空気を吸い続けています。聴覚は、走行音とアナウンスと、イヤホンから漏れる音と、人の話し声に囲まれています。皮膚感覚は、見知らぬ人の背中や腕やカバンが触れる不快さを、ずっと我慢しています。視界は、目の前に迫る人の後頭部や吊り広告で埋まり、目のやり場に困る。平衡感覚は、揺れとブレーキのたびにバランスを取り続けています。
これだけの刺激が、同時に、しかも自分では一つも選べないまま、押し寄せてくる。好きな音楽を流すように選んだ刺激ではなく、避けられない刺激として、五感に届き続けます。人間の感覚は、不快な刺激を受け続けると、それを処理するためだけに静かにエネルギーを使います。満員電車の20分や40分は、その処理でずっと働かされている時間なのです。
「我慢できる」と「消耗しない」は、違う
ここで、多くの人が誤解しがちなことがあります。満員電車の不快さは、我慢しようと思えば我慢できます。実際、みんな毎日我慢しています。だから、たいしたことではないと思ってしまう。でも、我慢できることと、消耗しないことは、まったく別の話です。
我慢とは、不快な刺激をなかったことにする行為ではありません。不快だと感じながら、それを表に出さないように抑え込む行為です。つまり、我慢している間ずっと、あなたの内側では処理が働き続けています。においに顔をしかめない。触れられても平静を保つ。イライラを表に出さない。その一つひとつが、静かなエネルギーの支出です。だから、満員電車を無事に乗り切れた日でも、消耗していないわけではありません。ただ、消耗が表に出ないよう、うまく抑え込んだだけなのです。改札を出た瞬間のあの疲れは、抑え込んでいたものが一気にゆるむサインなのかもしれません。
感覚の疲れは、その日一日に尾を引く
やっかいなのは、この感覚の消耗が、電車を降りたら消えてくれるわけではないことです。
朝の通勤で感覚をすり減らした状態で、私たちはそのまま仕事を始めます。本来なら一番頭が冴えているはずの午前中を、すでに少し削れた状態でスタートする。集中力が続かない、些細なことでいらだつ、午後になると急に眠くなる。それを「自分の集中力が足りないせい」だと思っている人は少なくありません。でも、その一因が朝の通勤にあるとしたら。一日のパフォーマンスの土台が、始業前にもう目減りしているのだとしたら、それはずいぶんもったいない話です。感覚の疲れは、体力の疲れと違って自覚しにくいぶん、原因に気づかないまま「なんとなく調子が出ない毎日」として積み重なっていきます。
家で働くと、刺激を自分で選べる
では、通勤がなくなるとどうなるか。いちばん大きく変わるのは、五感に届く刺激を、自分で選べるようになることです。
家で仕事を始める朝は、まず静かです。においも、自分の家のいつものにおいだけ。誰にも触れられず、揺れもなく、目の前に他人の後頭部が迫ることもありません。聞きたい音楽があれば流せばいいし、静けさがほしければ静かにしておけばいい。刺激を我慢する側から、刺激を選ぶ側に回れる。この違いは、思っている以上に大きなものです。感覚を守られた状態で一日を始められると、午前中の集中は驚くほど続きます。通勤で削れていたぶんが、まるごと手元に残るからです。楽になるというより、そもそも余計にすり減らさずに済む、という感覚に近いかもしれません。
数字にならない消耗こそ、見つめる価値がある
通勤時間を減らしたいと思うとき、私たちはつい、時間や体力といった数えられるものだけを天秤に載せます。でも、本当に毎日あなたをすり減らしているのは、数字にならない感覚の消耗のほうかもしれません。においも、音も、圧迫も、視界も、我慢という名の抑え込みも、すべてが静かにエネルギーを奪っています。数えられないから軽く見られがちですが、軽いから無視していいわけではありません。
通勤の負担をなくすために、キャリアや収入を手放す必要はありません。多くのビジネス職で、通勤ゼロや出社を大きく減らして働ける仕事は、実際に見つかります。気をつけたいのは、募集要項の「リモート可」という言葉が、必ずしも通勤のない毎日を意味しないことです。実際には週の大半が出社で、また同じ満員電車に戻ってしまうこともあります。本当に感覚をすり減らさずに済む働き方かどうかは、出社頻度の事実で確かめる必要があります。
NoTrainは、掲載する求人が実際にどれくらい出社するのかを、募集要項の原文まで一件ずつ確かめています。毎朝の見えない消耗から降りたい人が、事実にもとづいて働き方を選べるようにするためです。
まとめ
満員電車のつらさは、時間や体力だけではありません。におい、音、圧迫、視界、そして不快さを抑え込む我慢。五感のすべてが、毎朝少しずつ削られています。我慢できるからといって、消耗していないわけではない。その疲れは自覚しにくいまま、一日の集中力に尾を引いていきます。家で働けば、刺激を我慢する側から選ぶ側に回れて、午前中の集中がまるごと手元に残ります。数字にならないからこそ見過ごされがちな消耗を、一度きちんと天秤に載せてみてください。
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